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志村貴子

放浪息子

放浪息子 9 (BEAM COMIX)放浪息子 9 (BEAM COMIX)
(2009/07/25)
志村 貴子

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 2009年10月現在で9巻まで刊行。続刊。

 ※この作品は「百合」とは何の関係もありません。志村貴子ということで取り上げました。
 未完でありながらも、おそらく志村貴子の最高傑作になると言われている作品ということで、少しこの物語にも触れてみたいと思います。

 魅力ある登場人物を多数動かすという難題。

 個性のあるキャラクターを多数配置して、それらを埋もれさせることなく演技させていくというのは、物語を作るうえでは当たり前の作業ですが製作側からすると、とても難しいことです。
 なぜなら、多数の人物に交流を与えるとなると、必然的に演技の幅やテキストにかける仕事量が鼠算式に増えていくからです。
 しかし、個人個人での反応を変えパターンを変化させなければ説得力を持たせられないのは事実でしょう。
 一人の人間が一つの表情で全てのキャラクターと会話できるはずがありませんから。

 この物語では、それらが実にいきいきと描写されています。相手に対する好意、嫌悪、戸惑いが表情だけで伝わってきます。
 この作者は細やかな心理描写を得意とする等と言われていますが、その風評は真実と言わなければならないでしょう。
 
 更にその登場人物が変化、成長していくという難問。

 この「成長」というのは、バトル物等の主人公が修行によってどんどん強くなっていくという成長と少し意味が違うかもしれません。
 得てして、そういった人物は精神的には変化を求められないものです。
 例えば、ドラゴンボールの主人公が修行によって強大な力を手に入れますが、彼は子供の頃と変化なく純水無垢なまま強い対戦相手を求めて修行を続けます。力に溺れて悪に染まり、世界を征服するということはありません。
 読者側からすれば、それが当然の世界であり、逆に変わってもらっても困るのは自明の理です。
 このドラゴンボールの主人公は一つの例の一側面でしかなく、良い悪いで出したものではありません。

 所謂一般的に萌え要素といったギミックを盛り込んだだけで出来上がったキャラクターは記号としての存在が大きく、物語の進行如何に関わらず成長、変化することが無い場合が殆どです。
 これは当然のことですが、パラメーターとして役割や能力値や容姿を与えられているだけなので変化していくことを前提に作られていないからです。
 ただ、それは当然のことなのです。キャラクターの意思がぼやけてはいけないストーリーでは変化しないことこそが必要なのですから。

 一方、放浪息子の登場人物達は、初めから成長していくことを前提に作られているようです。(主人公の二鳥くんはトランスジェンダー的な人物として書かれていますが、物語の中では一切の言明はなく、作者も意図的に省いて表現を続けています)
 当初、彼は小学生ということもあり自分のセクシャリティ自体を意識していませんし、そのような思考すら持っていません。
 しかし、やがて中学生になり周囲の状況や身体が変化し始め、意識せざるをえなくなってきます。マイノリティに対する周囲の必然的な拒絶にも接しなければいけないわけです。
 そこで彼は自分の道を選択していかなくてはならないでしょう。

 変化していく登場人物の扱いが難しいのは、間違った方向に舵取りをしてしまうと、途端に読者が興味を失ってしまうからに他なりません。
 架空の人間ではあるが、一定のリアリティも持たせ人間としての成長を描いていく…。
 普通はあまり突っ込んでやりたい手法ではないかもしれませんね。作り上げられたキャラクターを動かすほうが楽ですので。

 そういった難題をウルトラC連発でクリアしていく作者の力量には、最早脱帽するしかありませんね。ここで褒めちぎっても仕方が無いことではあるのですが・・・。

 この物語を読んでいて改めて感じたのは、セクシャルに関しては恐らく社会的な変化は訪れないであろうという現実です。

 メディア媒体で、ゲイ、ニューハーフが一般的な市民権を得て活躍し、トランスジェンダーという存在が真剣に討論され、BLやGLという物語が当たり前のように身近に存在する現在においても、偏見はなくなっていません。それどころか偏見は深くなっています。

 TV等でニューハーフが当たり前の時代に何をバカな・・・。既に性差別は無く、受け入れられていると仰ることでしょう。
 しかし、所詮「当事者」ではありませんからね。友人、そして家族からそのような人間が生まれてしまったとき。理解できる人間は非常に少ないというのが現実です。

 9巻あたりでそういった描写が強くなってきていますが、今後の落としどころが非常に気になりますね。
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